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東京家庭裁判所 昭和63年(少)5711号 決定

少年 U・K子(昭45.1.6生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第1  公安委員会の運転免許を受けないで、昭和62年3月16日午後7時20分ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番付近道路において、第一種原動機付自転車を運転した

第2  同月30日午前11時ころ、同区○○×丁目××番××号先路上において、A子所有の自転車1台(時価5000円相当)を窃取した

第3  昭和61年9月8日に愛光女子学園を仮退院したが、中学生時代から身に付いた無断外泊、家出等の行動傾向は一向に改まらず、昭和62年3月8日以降は連日のように無断外泊を続け、上記第1及び第2の事実により補導されても再び無断外泊をし、非行性の高い男女と交際をするなどしていたものであって、保護者の正当な監督に服さず、正当の理由がなく家庭に寄り附かないばかりか、不道徳な人と交際し、自己の徳性を害する行為をなしており、このまま放置すれば、将来、生活費に窮するなどして窃盗や恐喝あるいは売春防止法違反の罪等を犯す虞がある

第4  B子と共謀のうえ、昭和62年8月27日午後5時ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番地先路上において、C子(当時17歳)に対し、「金を持っていないか。ヤクザ者にカンパを回されている。金を出さなければ危害が加わる」などと申し向けて金員を要求し、その要求に応じなければ同女の身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示して同女を畏怖させ、同日午後5時20分ころ、同区○○×丁目××番××号先路上において、同女から現金2100円のほかテレホンカード等(時価500円相当)の交付を受けてこれを喝取した

第5  B子と共謀のうえ、同年9月1日午後6時30分ころ、同区○○×丁目×番×号先路上において、D子(当時16歳)に対し、「お金持っているだろう、ヤクザから何十万のカンパが回ってきている」などと申し向けて金員を要求し、その要求に応じなければ同女の身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示して同女を畏怖させ、同女から現金2万円及びセカンドバック等4点(時価2000円相当)の交付を受けてこれを喝取した

第6  法定の除外事由がないのに、昭和63年4月上旬ころ、東京都内及びその周辺において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン若干量を自己の身体に注射して使用した

ものである。

(法令の適用)

第1の事実につき道路交通法64条、118条1項1号

第2の事実につき刑法235条

第3の事実につき少年法3条1項3号イ、ロ、ハ、ニ

第4及び第5の各事実につき刑法60条、249条1項

第6の事実につき覚せい剤取締法41条の2第1項3号、19条

(附添人の主張について)

1  附添人弁護士○○は、昭和63年5月7日付上申書において「少年は前示第6の事実により通常逮捕されているが、その逮捕手続に先行した警察署への連行は法律の手続きによらない違法な身柄拘束であり、したがつて、その拘束中に採取された尿及びこれに関する鑑定書の証拠能力は否定されるべきである」旨の主張をしており、少年も当裁判所の調査及び審判段階において一貫して「警察への連行は違法であり納得できない」旨の供述を維持している。

2  そこで検討するに、警察官は、少年法3条1項3号に規定するいわゆる虞犯少年あるいは家出中の少年を発見し、少年の年齢や発見時の状態など周囲の状況に照して保護が必要であると判断した場合には、警察官職務執行法3条に規定する保護手続以外に、警察法2条1項に基づいて当該少年を保護することができるものと解すべきであり、保護のため警察署等へ同行を求めることは強制力を伴わない任意なものに限り一般的に許容されるべきものであって、現在の警察活動も警視庁少年警察活動規程、警視庁家出人及び迷い子取扱規程、警視庁少年保護所運営規程等に基づいて少年の補導や保護が実施されているところ、昭和63年少第5711号事件の法律記録、当庁の家庭裁判所調査官○○作成の調査報告書2通及び当審判廷における少年の供述を総合すると、警視庁○○警察署の警察官○○は、昭和63年4月10日午後2時30分ころ、少年の母親から「家出中の娘が伯母の家に帰って来ているので保護してほしい」旨の電話連絡を受けたことから、他の警察官3名の応援を得て伯母のU・E子方に赴いて戸外で待機をしていたこと、少年は、伯母の家で風呂に入ったのち、同日午後5時35分ころ、伯母の家の玄関から出て来たところを待機中の警察官○△に呼び止められ、保護するから警察に行こうと言われて、片腕をつかまれたうえ近くに駐車していた普通乗用車の後部座席に乗車するように促されて乗車し上記警察署まで連れて行かれたこと、少年は、警察官から呼び止められた際一時的に不快感を示し、しかも当時覚せい剤を注射していたことから覚せい剤の件で逮捕されるものと思い込んだため、上記警察官らに「何んで連れて行くんだ」「逮捕状はどうした」と文句を言っていたが、そのほかは格別抵抗を示してはおらず上記警察署での取調べにも応じていたことが認められるが、以上の事実関係からすれば、腕をつかむなど強制力の行使とみるべき所為もなくはないけれども、逮捕と同一視できる程度の強制力の行使があったとまでは認められず、本件における警察署までの同行並びにその後の保護手続は、警察法2条1項に基づくものとして適法なものであったと言うべきである。なお、採尿は右保護手続中に実施されているが、少年自身任意性について争ってはおらず、しかも一件記録を精査しても違法な押収があったと認めることはできないから証拠能力に何ら問題はないと言うべきである。

したがつて、附添人の前記主張は採用することができない。

(処遇の理由)

少年は、昭和60年9月5日に当庁において虞犯保護事件により試験観察の決定を受け、経過観察後の同年12月16日保護観察処分に付されているが、その後も経過は不良であったため、同61年4月4日に当庁において同種の虞犯保護事件により中等少年院送致の決定を受け、同年9月8日に愛光女子学園を仮退院している。

ところで、前示第3の事実は3度目の虞犯保護事件であり、従前からの母娘関係の改善なしには少年を一時的に収容保護したとしても少年の更生は困難であると考えられたことから、前示第2及び第3の非行事実に関して再度の試験観察を実施することとし、当庁家庭裁判所調査官の指導、助言の許で少年に自立を促す一方、従来少年の監視役のみに徹し表面だけを取り繕っていた母親に働きかけ、ある程度の時間をかけて母娘関係の改善を図ろうとし、その効果も表われ始めたかに見えたところ、少年は前示第4及び第5の恐喝事件を起したころから身柄拘束をおそれて所在が不明となり、その後は偶に少年から母親あてに電話が入る程度になってしまった。そこで、当裁判所は緊急同行状を発して所在調査をしていたが、一向に所在がわからず、今回の覚せい剤取締法違反事件の逮捕により少年の身柄がようやく確保できることになった。

少年は、覚せい剤事件については、逮捕状を見せられた時点から急に態度が変って事実を否認するようになり、当審判廷でも附添人の説得により覚せい剤の使用自体は認めるに至ったものの、覚せい剤の入手先、使用の場所や動機などについては、関係者を庇うためか、あるいは全てを供述してしまうことが母親に対する屈服を意味するためか一切供述しようとせず「言いたくないから言わないだけだ」と強弁している状態であって、事案の重大性は多少とも認識していることが窺えはするものの周囲の者の説得を聞き入れない状況にある。

したがって、少年に対しては、在宅処遇を試みることは困難であり、この際、再度少年院に収容して矯正教育を施し、今後とも母娘関係の改善に助力していくことが相当であると判断される。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により、主文のとおり決定する。

なお、医療処置後は中等少年院における処遇が相当であるので別途その旨の勧告をする。

(裁判官 伊藤治)

〔参考〕処遇勧告書〈省略〉

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